発達障害の子の保護者は学校とどう関わるべきかを、長年の小学校普通学級担任の立場からお伝えします

ガッツポーズの中学生 発達障害
FineGraphicsさんによる写真ACからの写真

この記事を読んでほしい人

  • 発達障害のお子さんの保護者の方
  • お子さんが発達障害かも、と思っている保護者の方
  • 普通学級の先生
  • 障害児教育に興味のある方
  • 小児科や精神科の医療機関の医師の方
  • カウンセラーの先生

この記事を読むと分かること

  • 障害児の対応に関する社会や学校の制度が変化してきたこと
  • 私が担任した発達障害の子の保護者の例
  • 発達障害の子どもをもつ保護者は、教師や友達の保護者とどうやって関わればよいか

はじめに

幼稚園・保育園・小学校に通われているお子さんをもつ保護者の方の中で、お子さんの行動が「ちょっと周りの子と違うな。」とか「落ち着きがないな。」と感じる方、幼稚園や保育園・小学校に入ると、「周りの子とうまく関われない。」「けんかやトラブルが多い。」などの悩みをもつ方がいらっしゃると思います。

そして、「うちの子、もしかして、発達障害かも?」と思ってみえたり、実際に医療機関や相談機関で診察を受けたり相談されたりした方もみえるでしょう。

障害のあるお子さんに対する学校の制度が、ここ10年ほどでいろいろ変わってきており、保護者の方が小・中学生だった頃とは、学校の様子も変化しています。

そこで、そのようなお子さんをもつ保護者の方に、小学校で、お子さんができるだけ困らないように過ごすために、どのようなことに気を付ければよいのかについて、小学校・中学校で長年教師をしてきた私がまとめてみました。

寝そべって好きなときに勉強する発達障害の子ども



障害者に対する考え方の変化

障害者権利条約

2014年1月20日に、日本で「障害者権利条約」が締結されました。

その内容については、外務省の「障害者権利条約」パンフレットに記載されています。

以下、そのパンフレットから引用して説明します。

第2条では、

障害者に『合理的配慮』をしないことは、差別になる。

と決められています。

『合理的配慮』とは、

障害者が困ることをなくしていくために、周りの人や会社などがすべき無理のない配慮

のことです。

そして、第24条では、教育についての障害者の権利を決めています。

そのために、

国が、障害者があらゆる段階の教育を受けられるようすべきこと

教育を受けるとき、それぞれの障害者にとって必要な『合理的配慮』がされること

という内容です。

発達障害、グレーゾーンの子の勉強方法に「天神」

障害者権利条約に関する日本の学校での取り組み

取り組みの概要

外務省の「障害者権利条約」パンフレットでは、条約に関する日本の学校での取り組みについても紹介しています。

2011年に障害者基本法が改正され、「可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮」すること等が新たに規定されました。

2013年に、学校教育法施行令が改正され、従来、一定の程度以上の障害のある児童生徒は特別支援学校への就学が原則とされ、小中学校への就学は例外だったものが、障害の状態等を踏まえ、総合的な観点から就学先を決めるようになりました。

さらに、一人ひとりのニーズに応じたきめ細かな指導を行うため、通級指導の教員の増員や、特別支援教育支援員の経費に対する地方財政措置が行われています。

また、障害のある児童等に対する個別の教育支援計画や個別の指導計画の作成が進められているほか、

弱視の児童等のための拡大教科書等の普及促進、

教育・医療・福祉・保健・労働といった関係機関の連携等による、発達障害を含む障害のある児童に対する支援に必要な様々な施策が進められています。

これらの日本の取り組みの中から、実際の小学校の様子を、皆さんにお伝えします。

特に、発達障害の児童生徒に関係することを説明します。

椅子に座って集中して勉強する小学生

可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるように配慮すること

お住まいの地区や、学校によって違いがあるのですが、私の勤務していた自治体では、特別支援学校と小・中学校の間で、お互いの学校の様子を見学したり、実際に児童・生徒同士が交流したりする取り組みがされています。

私も、近くに養護学校がある小学校に勤務していたとき、2年生の子どもたちをつれて、養護学校の作品展や授業風景を見学に行きました。

つくられている作品の素晴らしさと、整然と授業が行われていることに感心しました。

連れて行った子どもたちも、とても喜んでいました。

校内でも、特別支援学級の児童・生徒が、普通学級の授業に可能な限り参加したり、普通学級の児童・生徒が特別支援学級の児童・生徒の教室に行って、一緒に給食を食べたり、遊んだりといった活動がされています。

普通学級の子どもたちも、障害のある子どもたちに、他の子どもと同じように接したり、優しくしたりすることができています。

障害の状態等を踏まえ、総合的な観点から就学先を決めること

多くの市町村教育委員会には、居住する障害児の就学上の指導及び助言を行う「就学指導委員会」(名称は様々あります。)が設置されています。

「就学指導委員会」では、児童生徒の教育的ニーズをきめ細かく把握し、これを就学先の決定に反映するための調査・審議を専門的に行います。

希望があれば、入学前に学校見学もできます。

また、学年が上がる際も、本人・保護者からの要望によっては、普通学級から特別支援学級に移ったり、特別支援学級から普通学級に移ったりすることができる場合があります。

一人ひとりのニーズに応じたきめ細かな指導を行うため、通級指導の教員の増員や、特別支援教育支援員の経費に対する地方財政措置が行われていること

学校内に通級指導教室が設けられている小・中学校が少しずつ増えています。

普通学級に在籍する障害のある児童・生徒が、その子の状況に応じて、一週間に1~2コマ程度、自分の所属する学級の授業を受ける代わりに、通級教室へ通います。

自分の通う学校にない場合は、近隣の通級指導教室に通うこともできます。

そして障害に応じて、専門の教師が児童・生徒に対し、必要な指導を行います。

発達障害のお子さんの場合は、友達との関わり方の練習や、集中力を高めるための訓練などを行います。

通級に通っている子どもの様子は、専用の連絡ノートで、担任や保護者に知らされます。

通級学級の担当から、担任に対して、「今日は落ち着かない様子でした。とか、「今日は集中して課題をこなすことができていました」などと、細かく報告もありました。

学級の児童たちも、「頑張ってきてね。」と、通級に通う児童を明るく送り出していました。



障害のある児童等に対する「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」の作成が進められていること

平成17年4月1日に、「発達障害者支援法」が施行され、文部科学省から、「発達障害のある児童生徒等への支援について」という文書が通知されました。

その「第2」の「発達障害のある児童生徒等への支援について」の「小学校等における『個別の指導計画』及び『個別の教育支援計画』の作成」の項に、

小学校等においては、必要に応じ、児童生徒一人一人のニーズに応じた指導目標や内容、方法等を示した「個別の指導計画」及び関係機関の連携による乳幼児期から学校卒業後まで一貫した支援を行うための教育的支援の目標や内容等を盛り込んだ「個別の教育支援計画」の作成を進めること。

とあります。

個別の教育支援計画」については、

障害のある幼児児童生徒の一人一人のニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくという考えの下、長期的な視点で乳幼児期から学校卒業後までを通じて一貫して的確な支援を行うことを目的として策定されるもので、教育のみならず、福祉、医療、労働等の様々な側面からの取組を含め関係機関、関係部局の密接な連携協力を確保することが不可欠であり、教育的支援を行うに当たり同計画を活用することが意図されている。

平成20年10月27日 文部科学省 特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議(第6回)資料1 個別の教育支援計画について(補足資料)より引用

と書かれています。

また、合わせて作成することになった、「個別の指導計画」とは、

児童生徒一人一人の障害の状態等に応じてきめ細かな指導が行えるよう、学校における教育課程や指導計画、当該児童生徒の個別の教育支援計画を踏まえて、より具体的に児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して、指導目標や指導内容・方法を盛り込んだものである。

平成16年1月文部科学省「小学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」より引用

とあります。

そして、平成28年8月1日に、「発達障害者支援法の一部を改正する法律」が施行され、第8条第1項に、発達障害の児童に対して、学校で「個別の指導計画」と、「個別の教育支援計画」を作成することが、法律によって明確に規定されました。

さらに、

平成30年8月27日に、文部科学省より「学校教育法施行規則の一部を改正する省令の施行について」という通知がされました。

その中で、

特別支援学校や特別支援学級、通級指導教室に通っている児童生徒について、「個別の教育支援計画」の作成に際しては、当該児童生徒又は保護者の意向を踏まえつつ、関係機関等と当該児童生徒の支援に関する必要な情報の共有を図ること

と明記されました。

これらにより、普通学級に在籍する児童生徒の中で、通級指導教室に通っている子や、発達障害で医療機関にかかったり、相談機関などで相談したりしている子についても、担任や通級指導教室の教師が、児童生徒や保護者と面談し、その意向を踏まえつつ「個別の教育支援計画」を作成することになりました。

その他、保育園・幼稚園でも、発達障害の疑いがあって、医療機関や療育センターなどで、診断してもらうと、その子の特性・困りごとについて、幼稚園の先生や保育園の先生が、保護者から聞き取ったことを基にカルテのようなもの(名称は様々です。)を作成してくれます。

そして、その書類は、小学校への就学の際に、そのまま学校に引き継いで、学校側が情報を入手する仕組みです。

また、「個別の教育支援計画」には、入学後も、お子さんが発達障害の件で、医療機関や児童相談所、療育センター等と関わった場合に、その情報を記入することになっており、学校と関係機関で確実に連携をすることができるようになっています。

そして、毎年、年度初めに担任や担当者と保護者が面談をして、「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」を見直し、その年度の学習や生活をどう支援していくのかを、話し合って決め、年度終わりにその年度の支援を振り返り、次年度どうするか決めていく制度です。

教育・医療・福祉・保健・労働といった関係機関の連携等による発達障害を含む障害のある児童に対する支援に必要な様々な施策が進められていること

前述したように、平成17年4月1日に、「発達障害者支援法」が施行され、文部科学省から「発達障害のある児童生徒等への支援について」という通知が出されました。

その「第2」の「発達障害のある児童生徒等への支援について」の中に、

都道府県及び指定都市教育委員会において、LD等か否かの判断や望ましい教育的対応について、専門的な意見等を小学校等に提示する専門家チームを設置すること。また、小学校等を巡回して教員等に指導内容や方法に関する指導や助言を行う巡回相談を実施すること。

と記述されています。

また、

LD等の幼児児童生徒の支援体制の整備に当たっては、都道府県及び教育委員会においては、学校と地域の関係機関との連携協力による支援体制の整備を推進するため、広域又は地域の特別支援連携協議会の設置を通じ、医療、保健、福祉、労働等の関係部局とのネットワークを構築すること。

と書かれています。



特別支援学級か普通学級か

ここまで書いたことで分かるとおり、現在は学校を始め、社会全体が障害者に対して差別をなくそうという風潮になっています。

学校では、障害のある子には、継続的に支援を続け、できるだけ障害のない子と一緒に勉強できるような制度になってきています。

ですから、発達障害、または、発達障害の疑いのあるお子さんをもつ保護者の方は、学校に対して、遠慮せずにお子さんの学校生活について、質問したり要望を出したりしてください。

ただ、普通学級に在籍される場合、小学校では、授業は基本的に担任一人で行います。

発達障害支援員や少人数指導担当の教員が時々は授業に入ってくれますが、一人のお子さんに付きっきりになることは、制度上できません。

お子さんを手厚く支援して欲しい、と思われるのでしたら、特別支援学級に入るのがお薦めです。

従って、あくまでも私個人の考えであり、障害の度合いにもよりますが、特別支援学級に入ったり、通級指導教室に通ったりして勉強することができるのなら、そうしてあげた方が、お子さんのためになる場合は多いと思います

発達障害の子の保護者は担任や他の保護者とどう関わるべきか

担任の先生や同じクラスの保護者の方とは、こまめに連絡を取り合うようにしましょう。

お子さんが学級のお友達に迷惑をかけそうだな、と心配でしたら、年度初めの保護者会で、ご自分のお子さんの特性について、他の保護者の皆さんに説明して、ご自分が親として困っている気持ちを理解してもらえるようにされるとよいです。

今まで受け持った発達障害のお子さんの保護者の中には、保護者会で病名を発表したり、他の保護者に向けて、お子さんの特性について説明するお手紙を作成して配られた方もみえました。

そうすることで、お友達と何かトラブルがあったときや、お子さんが大きな声を出してしまい、授業に支障が出てしまったときにも、他の保護者の方からの理解が得られやすいと思います。

担任の先生にも、「うちの子の学校での様子はどうですか。」などと、積極的に連絡をされるといいです。

担任の先生も、多少のトラブルなどでは、保護者の方に連絡されない場合があるので、問題が大きくならないうちに、お子さんのために家や学校でできることを、先生と一緒に少しずつ進めていかれるとよいと思います。

それを拒否するような先生はみえないでしょうし、障害のあるお子さん自身が困らないようにするためにも、是非そうされることをおすすめします。

私の教員としての今までの経験から、そのように早めに、積極的に行動される保護者の方の方が、私も学校でのお子さんの困りごとを話したり、一緒に考えていったりすることがしやすかったからです。

まとめ

発達障害やその疑いのあるお子さんの保護者の方は、悩まれることが多く、大変だと思います。

しかし、迷ったときは、将来的にお子さんが自立して社会の中で幸せに生活できるようになることを一番に考えて、行動されるとよいと思います。

そして、周りの人をどんどん頼って、できることは積極的にしてみるのがいいと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました